scr.

造詣がないのに日本文学を読み漁る

『葉桜と魔笛』を読んだ。

*私、あんまり文学とか造詣ないんで太宰先生ファンに殺されるようなことを書いてしまうかもしれないのであのあんま読まないほうがいいです。冒頭が長くてすみませんね

 

✿書いた人

日本文学史に名を残す悪女にして、天才的文学者である。

幼少時は父親の無関心の元育ち、成長してのちは芥川龍之介に憧れ、小説家を目指すようになる。東京帝国大学仏文科を「格別の配慮」によって入学するも、中退。以後、薬物中毒や自殺衝動になんども苦しむことになる。憧れていた井伏鱒二の弟子となるが、自分の病気療養中に世話をしてくれた、文壇の重鎮で井伏の師匠・佐藤春夫*1を愛してしまう。開設された芥川賞候補に複数回なり、その際に選考委員でもある佐藤に送った4メートル、また10メートルに及ぶ熱烈すぎる恋文は今なお読者の心に深い印象を与える。佐藤はその返事として小説*2をプレゼントしている。自分の弟子が師匠を狂愛している事実に、井伏は何を思い何をビビったか不明である。その後、芥川賞受賞は残念ながら果たせなかったものの、その際に怒りと悲嘆のあまり、選考委員で若き文壇の重鎮・川端康成*3へ、川端との熱烈な関係をぶちまける*4。たぶん佐藤の目を盗んで二人の間で何かあったのだろう。つまり、佐藤と川端と、二股をかけていたということになる。そのせいである可能性は0%に近いと思われるが、川端と佐藤はこの後、芥川賞の選考において推し作品と低評価作品が真逆になるびっくり珍現象をなんども引き起こしている。結局彼女自身は川端を終生恨みぬいたものの、川端はその後も彼女を愛し続けているかのような態度をとる。
あっ、ちなみに、彼女は川端の師で資産家でもある菊池寛から家を買ってもらっているらしい。…三股かもしれないな。

その後は、同年代の檀一雄や山岸外史などといった文学者たちと深い関係となる*5一方で、盟友の坂口安吾織田作之助無頼派を立ち上げ、戦後日本文学の混乱を溢れるエネルギーで食い破っていくことになる。私生活では、たった一晩しか共に過ごしていないのになぜか泥沼になった三島由紀夫*6に対して発した「そんなこと言ったって、こうして来ているんだから、やっぱり好きなんだ。なぁ、やっぱり好きなんだ」はあまりに有名。愛弟子の奔放すぎる行動に、師匠の井伏も頭を抱えていたかもしれないが召集や将棋や釣りに忙しかったかもしれない。

ところが、以前より噂のあった文壇の大御所である志賀直哉*7との泥沼破局が明るみに出はじめ、体調が悪化。血を多量に吐くようなひどい状態にまで陥ってしまう。その混乱の中、志賀をアマチュア呼ばわりし、彼の長編を侮辱し、芥川龍之介のことが全くわかっていないと怒り*8、彼に自分に対する嘱託殺人を要求する*9など、以前佐藤や川端など、騒動を起こした恋人たち()とは比べ物にならないほど狂気に満ちた錯乱文を志賀に向かって連発した直後、39歳の若さで波乱に満ちた人生を自ら閉じる。なぜか師匠の井伏が最後遺書で「井伏さんは悪人です」とdisられた。そのため、本命は井伏だったのに、彼女の想いに井伏が答えなかったのでここまで狂気の沙汰を演じたのでは…とか、幼少期父親に愛されなかった経験から、年上のお兄さん・おじさん・お爺ちゃまに無意識に父を求める癖があったのでは……?とかなんとかアングラでは囁かれている。

他人を散々振り回し大御所や重鎮との泥沼狂乱恋愛騒動でめちゃくちゃな人生であった一方で、文学作品は珠玉・日本の至宝ともいうべきものであり、国語の教科書の常連である。

 

 とまあ、冗談はここまでにしてだな。

この先生の作品は一見すると、美人で気が強くて繊細で抱え込みすぎる故に思考や発想が病んでしまう女性が書いているのではないかと思って!私が!(੭ु´͈ ᐜ `͈)੭ु⁾⁾
とはいえ、太宰先生は不思議なことに死んでなお、私の友人親族知り合いが言うには「女子大のゼミを壊滅させた」「女子短大のゼミが大奥になった」「大学のゼミの女子生徒全員連れて行かれた(どこにだろう…)」というやばい文学者だそうですのでお気をつけください。

 

てなわけで、今回は、これに出てきた作品を読みました。 

妖しき文豪怪談 「片腕」 「葉桜と魔笛」 [DVD]

妖しき文豪怪談 「片腕」 「葉桜と魔笛」 [DVD]

 
葉桜と魔笛 (青空文庫POD(ポケット版))

葉桜と魔笛 (青空文庫POD(ポケット版))

 

 

あらすじ 

桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します…。老婦人が回想する。自分には病身の妹がいたこと、その妹に宛てて書かれた手紙のこと。しかし、老婦人の回想はどんどんと意外な方向へと話が進んでいく。

登場人物 

*聞き手(老婦人の語りを聞いているという形式)
女性(老婦人、姉):語り手。シスコンで繊細。物語時20歳。一家のきりまわしが立ち行かなくなるため、なかなか嫁に行けず、当時としては遅い24歳で結婚。自分も喪女だから妹にも喪女であって欲しいと願うタイプ。…たぶん。

妹:女性の妹。物語時18歳。シスコン。腎臓結核を患い、余命が短い。ふと思い立って空想上で彼氏を作ることにする。姉妹揃って思い込みと気性が激しい。

父:島根県のある城下町の中学校長。学者気質。

静かな狂気を感じました。そして、その物狂いの様を表すかのように次々と急展開して、飽きないですね!
童子 では「人の情の深さ」でかなり泣きましたが、こちらは泣けるというより人の情の深さが怖い。怖いぞ。姉の、ヤンデレに似た独占欲むき出しの愛情の上に、妹にしたことに対する罪悪感がどろどろと渦巻いてて、

ともかく、人って、怖い!!!!

ちなみにこの作品、日露戦争日本海海戦の時期が設定されているのですが、太宰先生のお姑さんが実際に島根県でその時の大砲の音を聞いたことを経験したことを元にしたものらしいです。

 

✿姉妹の関係が怖い。

情念ってこれなんじゃないかなって思いました。
ことばには決して出さないけれど、妹が他の男と好き勝手やっていることが妬ましい姉、それを言葉に表現できない姉、妹の恋愛が心だけのものでは無いとわかったときに手紙を焼く姉、それを抑圧して妹あての手紙を偽造する姉、でも妹を愛してる姉。
妹も、姉のそうした感情を見切って、姉への優越感を抱いているかのように、姉に恥をかかせる。でも、姉が大好きな妹。
姉妹の関係は怖いっていうけど、死ぬ間際になってもこんなのやってるのか。

それとも人間は死ぬ間際でもこうならざるを得ないのかな…むしろ、死ぬ間際だからこそこれですんでいるのかもしれません。

そして、その描写が病的なまでに美しい。

 

✿妹の気持ちが怖い。

 なんで空想上の彼氏を作ったのか。「淋しいから」と本人が言っており、実際淋しかったのでしょう。青春も病気でつぶれてるし。でも、「あたしの手が、指先が、髪が、可哀そう」といっている点からも、この妹、人生をそこに置かれているだけではなく生きてみたかったんだなあ…、と強く感じます。

でもその方法は、自分の空想に生きることで…でも、その空想は虚しさを倍増させるだけで…と思って妹のセリフを読んでみると、せめて姉への優越感だけでも抱きたかったという感情が見えてくる…気がします。家を切り盛りする姉に対して、妹は病身で幼く何もできず、いろいろと思うところもあったのかなと。でもその中で姉に対して勝てる方法は、自分が彼氏を作るということで…だからこそ空想上でも彼氏を作ったのでは…。

…もうすぐ死んでしまう人間が、それをすることの怖さ。

しかもそれも描写が美しい。

 

✿姉の行動が怖い。

ほとんどの場合、親族が憎たらしくて嫌いとかはありません。でも、親族・兄弟に言い知れない複雑な思いを抱いていて、それを抑圧したり諦めたりして、人は親族兄弟を愛しているのではないかとわたしはおもいます。

この姉の場合も同じだったんだろうと思います。けれど、妹に対して抱いた感情をあまりに押し殺してしまいすぎじゃないのと読みながら思いました。嫉妬や罵声を押し殺して、妹に届いた(妹が一通一通書いてたのですが)手紙を焼くという暴挙に出てしまいます。その前に妹に例の一通を突き出して「どういうことなのよ💢」とブチ切れてよかったんじゃないのと思います。妹の真意を聞くことができなかった。

最後の最後でやっと妹が真意を話したからよかったものの、この見たくないものに蓋をする様はまさに優しくて気弱な女子にありがちなアレですよね!

冒頭でネタを盛大に披露させていただきましたが(あれ調べるのクソほど大変だったんだからほんと如是我聞とか川端康成へとか読んでて志賀も川端も今読み中なので頭クラクラしたんだからほんと)、太宰先生、メンヘラ女子疑惑(私の中で)は葉桜と魔笛のここら辺を読んでいて強く感じました。

✿言葉メモ✿

私は、あまりの恥ずかしさに、その手紙、千々に引き裂いて、自分の髪をくしゃくしゃに引き毮ってしまいたく思いました。

おちつけ〜〜〜主人公〜〜〜〜〜

汚い。あさましい。ばかだ。あたしは、ほんとうに男のかたと、大胆に遊べば、よかった。あたしのからだを、しっかり抱いてもらいたかった。

妹ちゃんも…情念が深い。

姉さんだって、そうなのね。姉さん、あたしたち間違っていた。お悧巧すぎた。ああ、死ぬなんて、いやだ。あたしの手が、指先が、髪が、可哀そう。死ぬなんて、いやだ。いやだ。

情念が…深い…。結局は姉と同じ穴の狢だという妹。

私たち、言い知れぬ恐怖に、強く強く抱き合ったまま、身じろぎもせず、そのお庭の葉桜の奥から聞えてくる不思議なマアチに耳をすまして居りました。

 

次はさんざん太宰先生を評価しつつも最初芥川賞でしくじったためになぜか志賀先生をディスっているはずの如是我聞でもディスられた川端康成せんせの「伊豆の踊子」を読もうと思います!!ヒャッホーウ!

*1:当時40代半ばである。親子のような年の差

*2:そのまんまズバリのタイトル『小説芥川賞

*3:当時36歳、10歳くらい年上のお兄様

*4:川端康成へ」。「刺す。さうも思つた。大悪党だと思つた。そのうちに、ふとあなたの私に対するネルリのやうな、ひねこびた熱い強烈な愛情をずつと奥底に感じた。ちがふ。ちがふと首をふつたが、その、冷く装うてはゐるが、ドストエフスキイふうのはげしく錯乱したあなたの愛情が私のからだをかつかつとほてらせた。さうして、それはあなたにはなんにも気づかぬことだ。ただ私は残念なのだ。川端康成のさりげなささうに装つて、装ひ切れなかつた嘘が、残念でならないのだ。」といっており、素直に背景事情や裏の意味を考えずに読めば、乙女チックで妄想気味な彼女の惚気全開の熱烈なラブコールである。康成は弄びすぎたのである。

*5:たしか山岸に「(家に帰って)女房でも抱いて寝てればいい!」という罵声を発したり、檀と酔った勢いで心中しかけていたようである。佐藤や川端、後述する志賀と比べ彼ら二人とは穏当な関係を築いていたようであるが、かなり相当な修羅場も経験したようだ

*6:当時21歳。今度は年下である。三島は川端の弟子であり、川端に対して偏愛崇敬の念を抱いていた。きっと僕の康成様を翻弄した悪女の顔を見てやろうという魂胆で近づいたのだろう。

*7:当時60代半ば。もうここまで行くとお爺ちゃまである

*8:芥川が志賀をまるで彼女が芥川を敬愛するように敬愛していたことを考え合わせると意味深なものがある

*9:いわゆる「如是我聞」。そして別れたはずの川端がなぜか流れ弾を食らっている