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造詣がないのに日本文学を読み漁る

『地獄変』を読んだ。

✿あらすじ

ここはじーごーく!じーごーく!素敵なじごくだよ〜〜〜!

舞台は地獄。そこでは、戦後の人口爆発や悪霊の凶暴化により、亡者はあふれかえり、獄卒たちは人材不足に悩まされ、あの世は前代未聞の混乱を極めていた。そんな中、どこか頼りない閻魔大王に代わって地獄全272部署を治めているのは、閻魔大王に抜擢され、閻魔大王第一補佐官の座にまで上った有能な鬼神の鬼灯であった。鬼灯の幼馴染で衆合地獄主任補佐のお香、女癖が悪く、鬼灯に会うといつも張り合っている中国の神獣・白澤、お伽話としても有名な英雄の桃太郎とそのお供、新人獄卒の唐瓜・茄子などの個性豊かなメンバーと共に、ドSな鬼灯たちの日常を描く。人にとっての地獄、それは鬼にとっての日常であった。(wikiより)

芥川龍之介、渾身のギャグコメディ!!!

 

ではありません。

鬼灯の冷徹見れてないや…みたいな〜〜〜

なんで志賀読んだ後に芥川選んじゃったんだろうな。
精神にくる。SAN値がおかしくなる。ソウルジェムが濁る。

ベクトルは真逆だけど一緒に読むと本当にしんどい。
でも知ってるこの気分。

直虎みながら清盛見てるのと同じ気分だぁぁぁ!!!!!!
ないしはエヴァンゲリオンまどマギを同時に見てる気分だ…

みなさま、おんな城主直虎と平清盛は別々に楽しみましょう。同時に見ると、少しメンタルが豆腐だと心がやられます。

なんで政次と忠正おじさんは殺されなければならなかったのか!!!!!!!!!!!!!!!

(*史実だからです)

きっとあの二つの回は視聴者のトラウマだと思うのです(褒めてる)

地獄変 (ハルキ文庫 あ 19-2 280円文庫)

地獄変 (ハルキ文庫 あ 19-2 280円文庫)

 

 美しい表紙だったのでこれを選びました。

 

 

あらすじ

平安時代。堀川大殿様の権勢が凄まじかったころ。ある一人の天才絵師は大殿の頼みで地獄の絵を描くことになる。しかし、絵師は、どうしても「罪人の女房を乗せて燃える牛車」が描けない、という。そこで大殿が連れてきたモデルは、大殿様に仕えていた絵師の愛娘だった。

人物

良秀…絵師。凄まじい芸術家肌で、俺様で親バカ、ひとり娘を溺愛している。娘を里下がりさせてくれと大殿様にしきりに願うが、許されない。

堀川大殿…やっぱ俺様何様大殿様。おそらく文中の描写から、娘に懸想をしていたようである。

娘…美貌の心優しい少女。父である良秀が親バカなら、こっちはファザコンである。おそらく文中の描写から、長らく大殿の懸想に悩まされていたようである。清純な少女であるが、実は艶かしい姿態をもつ。

猿…かわいいさる。助けてくれた娘に懐く。

横川僧都…大殿の親戚。良秀の俺様っぷりを快く思っていない。

語り手…堀川大殿に仕える。娘が大殿様からレイプ未遂されたところに居合わせながらも、大殿様への信用が揺るぐことのないため語りを改変させる、いわゆる「信用できない語り手」である。

✿「地獄変」レーダーチャート

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文章の美しさ:志賀と一緒で「端正な日本語」って感じであり、学があるとは感じますが美しい言葉だなあと思えるものはあまりないです。
知性・教養:の芥川文学です。凄まじい語彙力を感じる。
話の面白さ:普通に面白い。あらすじがすっとわかっていいですね。
テーマ性:「芸術至上主義」について書いたものだそうです(`・∀・´)
描写の緻密さ:この前に読んだ描写の使徒の川端と志賀よりはわりと うん でも芥川先生には他に武器たくさんあるから
構成の巧みさ:論理構成の鬼・伏線大魔王芥川龍之介様とお呼びしたい。

✿調べた

  1. 堀川大殿…藤原基経ではといわれている
  2. 宇治拾遺物語が元ネタ。 

✿感想✿

ひどいよ!あんまりだよ、こんなのってないよ!!!!!!

志賀の場合は助かるかもしれないと希望を見せておいて、森から出た先は絶壁で志賀先生に背中蹴られてサヨナラするパターンですが、芥川の場合は丁寧に逃げ道を一つずつ無くして行き、最後芥川先生が用意した爆弾によって崖が崩れてサヨナラするパターンでうわっやめろ!!!!!やめろ!!!!!!!!!

 

 ✿ストーリーテリングがうまいなあ

天才小説家にストーリーテリングがうまいなあというのもバカを極めた発言でもうしわけないのですが、素直にそう感じてしまいました。

しかも、語り手は中立ではなく、大殿様寄りの人間であり、良秀を時に悪し様に罵ったりします。そして、語り手は見たことしか語らないので、幾通りの解釈ができるのです。正道の解釈としては懸想の逆恨みで絵師に嫉妬した殿様が目の前で娘を殺すというものなんでしょうが…

・父と離れたくない娘に、懸想した殿様が熱烈なアプローチをし続け、弱り果てた娘が殿様をあえて拒絶することで自死を選んだのかもしれない。
・殿様は娘に酷いことをし続け、それを察知した父が娘をたすけようともがいた結果、最悪の地獄絵図になったのかもしれない。

などなど、いろいろと考えることができます。

✿業が深い

かといって殿様は血も涙も無い人間なのか!というと、そうでもなく、非常に揺れる男心が描かれております。そこが、なんとも言えず業が深い。
結果的にはああなってしまったけれども、ひょっとして親バカの良秀が自分の凶行を止めるのを期待していたのではないだろうかと思います。でも良秀を甘く見積もり過ぎていた。絵画のためならなんでも売っぱらう男だと計算できていなかったんだろうな〜。
業が深い。しかも、その弱さや計算ミスを、素直に認めることができません。業が深い。

良秀はもともと業が深い人間ですね…。作中で悪し様に書かれているとは言え、良秀は絵に人生をかけているだけだと思います。ただ、その絵に人生を賭けるということが異常すぎる故に排除されてしまう感じ。

娘も…そんなに嫌なら屋敷を飛び出して猿を連れて親元に帰ればいいものを、帰らないのか帰れないのか、ひょっとしたらもうそこまで余裕のある心理状態ではなかったのかもしれません。実はかなり大殿様との仲が緊迫していたのかもしれません。
「罪人の女房」と称されるあたり、凄まじい殿様の情念を感じます。

そして破綻が起こる。

✿猿くんについて

気になったのが猿くん。良秀という絵師と同じ名前(猿なので猿秀と呼ばれますが)が与えられますが、良秀とは対照的に愛されます。娘も猿を愛しますし、猿も娘が大好きです。猿は娘の看病をしたり、まるで良秀が置いてきてしまった愛情や良心というものの象徴ではないかと思ってしまったりします。

その猿が、娘が死ぬ時一緒に死んだ…つまり良秀の愛情は娘が死んだ時に消えてしまったのかも〜。

そして、人間の良秀は自裁をする。

いや…あの…メンタルが普通の時にお読みください。すごく面白いと思います。
幾通りの解釈ができて、正解というものがなさそうなので、頭の体操にもちょうどいひっじょーに読んでいて飽きないのではないかと思います。

 

次は、「芥川先生は30歳の頃すでに大家だったのに、俺、30歳の頃何してたと思う?少女雑誌に小説投稿して落ちてた(´・∀・`)」と言っている井伏鱒二の「夜ふけと梅の花」を読もうと思います。